ホタル(全5回)

時原ひかる

 突然ですが、かつて私の人生にあった忘れることのできない数カ月間の話を聞いて下さい。
 今から遡ること二十数年前、当時中学生になったばかりの私は、入学祝いに買ったもらった新品のカメラを手によく町を徘徊していました。
 はじめはただシャッターを押すことがうれしくて、風景写真を撮ることで満足していた私でしたが、当然のことながら興味はだんだん女性へ移っていきます。
 クラスのアイドルの女の子の隠し撮りや、女子テニス部員のパンチラ写真、公園のカップルの行為の撮影とだんだんエスカレートし、ついに行くところに行き着いたのが公衆トイレの盗み撮りでした。
 個室の仕切り越しに放尿する局部を盗撮する─今考えると恐ろしい犯罪行為でしたが、当時の私にはまったく罪の意識がありませんでした。もちろん最初はうまくいくはずもなく、何度も失敗したのですが、女子トイレに忍び込み行為自体が病み付きになっていたのです。
 しかし、当然のことながら悪事にはいつか天罰が下るものです。
 たぶん、その日が、それまでの私のツケを支払う期限だったのでしょう。
 全身の神経を高ぶらせて待っていた私の耳に聞こえてきたのは、トイレに駆け込む女の子の靴音ではなく、どやどやと大人数でなだれ込んでくる不良女学生の声でした。しかも、悪いことに、その集団にまじって、怯える少女のすすり泣きが聞こえてきたのです。
「泣いて済むなら警察いらないんだよ。とりあえず、いくら持ってんのか、あるだけ出してみろよ」
 突き飛ばされた少女の身体が個室の壁に当たるその音に私は震え上がります。しかし、じっと息を潜めている以外に何もすることができません。
 早く帰ってくれ、その時私はそれまでの罪の懺悔を含めて祈りました。もし見つかれば、それこそただではすみません。聞こえてくる少女の悲鳴が、そのまま自分が引きずり出されて殴られる光景に重なります。
 そして当たり前ですが、私が無事にそこから抜け出すことはできませんでした。個室の一つに鍵がかかっていることに気付いた不良少女たちは、一瞬声を潜めましたが、次の瞬間から、激しくドアを叩き出したのです。
 彼女たちも正体を確かめないと、あとで警察に通報されるという心配があったのでしょう。あるいは、恐いものなどまったくなく、新しい獲物を追い詰めた気分だったのかもしれません。
 早く出てこいよ、そうはやし立てる声に耳を塞いでいると、突然、ドアが蹴り破られました。
 バタン、とものすごい勢いで開いた扉の向こうに立っている一人と目が合った瞬間のことは今でも鮮明に思い出すことができます。
 セーラー服に引きずるような長いスカートというその不良少女が、リーダー格の大嶋恵美でした。彼女は怯え切った私をまっすぐ見据えると、ふいにため息を洩らすように笑いました。次の瞬間、私は他のメンバーによって、個室から連れ出されました。
「こいつ中学生か…」「カメラ持ってるぞ」等、罵声を一斉に浴びせられながら、周りを取り囲まれます。
 先ほど暴行を受けていた少女は、制服を半裸に近い状態にされ、放心したように床に座っていました。
「おい、のぞき野郎! どうなるか、わかってんだろうな」
 という声とともに、どこからか飛んできた靴先が震える太ももを蹴り上げます。あまりの恐怖にまったく痛みは感じませんでしたが、そのじーんとした感覚が私を、まったく無縁だった世界にいることを思い出させます。恥ずかしい話ですが、ひ弱だった私はそれまで殴る蹴るという暴力とはまったく無関係に生きてきていました。
 そんな私にとって、相手が女性とはいえ、不良の格好をした高校生と渡り合うことなどできるはずがありません。
 彼女たちにしても、明らかに子供子供した私をどうこうするつもりなどなかったのでしょう。しかし、当時の私にそんな判断力はありませんでした。
「黙ってないでなんとか言えよ」
 そう胸元をつかみ上げられたと同時に、私は大声で泣き出していました。
 中学の制服こそ着ていましたが、中身は数カ月前まで六年間使い続けたランドセルを背負っていた小学生とほとんど変わっていなかったのです。そんな私にできることと言えば、ただ声をあげて泣くことだけでした。
 私がしゃくりあげながら泣くことで、その場が一気に白けていくのがわかりました。女ながらに、やるかやられるかの毎日を送っている彼女たちにとって、泣くという最大の恥辱を簡単にさらけ出す私に呆れ返ったのだと思います。
 しかし、それが当時の私の処世術だったのです。相手にする価値もないと見下されることで、私はその場から逃れられるという計算がありました。
 だから子供はいやなんだよ、というため息とともに吐き出されたセリフに、内心ほっとしていたのを覚えています。
 もし、その場に大嶋恵美がいなければ、すべては私の思惑通りになっていたはずです。しかし、恵美ただ一人だけは、私の卑怯な策略を見抜き、見逃すことをしませんでした。
「いい加減うそ泣きはやめろよ」
 彼女はそうつぶやくと、トイレの壁をバンと叩きました。力を入れたふうには見えませんでしたが、ベニヤ板の壁には殴った手のかたちに穴が空きます。
 それから恵美は目配せして、それまで暴行を受けていた少女を連れ出すように命じました。
 泣くという最大の防衛手段を奪われた私は、次は自分の番なんだと、ただ震えて立っていたのを覚えています。
「人が便所に入ってるのを覗くってのは、どうことだかわかってんだろうな」
 恵美は凄むわけでもなくただ低い声で追求します。
 すいません、とただひたすら謝る私に、彼女はもう一度、わかってるかどうかって聞いてんだよ、とくり返します。答えられない私を呆れたように鼻で笑うと、恵美は今度は制服のズボンを脱ぐように命令しました。
「パンツまで全部だぞ。恥ずかしいところを人に見られる気分がどんなだか、いっぺん味わってみろ」
 恵美の言葉に、その場にいた不良少女たちがいっせいにはやし立てます。私には逆らう根性もプライドもありませんから、言われた通りにズボンを下ろし、ためらう間もなく、ブリーフも一気にずり下げます。そして、不良たちの視線が一点に集中しているのを感じながらも、気をつけ! の姿勢で立っていました。
「おまえは人に言われればなんでもやるんだな」
 恵美はそんな私を蔑んだ表情で眺めました。
 たぶん、あっさり服を脱いだことが、気に入らなかったんでしょう。彼女はさらに私を辱める命令を下します。
「次はセンズリかいてみせろ。毎晩やってんだろ」
 恵美は軽蔑し切った口調で言いました。しかし、当時の私はセンズリが自慰行為を差す言葉とは知らなかったのです。毎晩お世話になっているソレだとは、うすうすわかっていたんでしょうが、愚かにも私はゼンズリってなんですか? と聞き返してしまいました。
 ふざけんな! と、その時はじめて恵美が怒鳴りました。
 そして、私を思いっきり突き飛ばすと、壁と自分の間に挟み込むように顔を近付けて、股間に手を差し込み、私の幼い性器を掴み上げました。
「これをいいっていうまで、こすってみせろって言ってんだよ」
 つべこべ言ってると引っこ抜くぞ、と彼女はそう凄んで、本当に引きちぎる勢いで腕に力を入れたのです。
 正直、それまで味わったことのない恐ろしさを彼女に感じていたと思います。しかし、それと同時に胸がきゅんと締め付けられるような、ぞくっとする感覚が私の体を走り抜けたのです。
 彼女になら、本当に引っこ抜かれてさえいいと思っていました。その時私の中を駆け抜けた衝撃には、それだけの価値があったのです。
 次の瞬間、私の股間には、イク寸前の収縮が起こりました。いくら覚えたてとはいえ、そんな一瞬にして、射精に至るとは考えもしてませんでした。
 しかし、まぎれもなくそれは本物だったのです。私は放出の、それこそほんの一歩手前で自分の股間を押さえることができました。同時に起こった深い快楽の痙攣は、私の手のひらに大量の精液を吐き出しました。
 たぶん、それを察して引っ込めた恵美の腕にも幾らかは私の体液が付着していたはずです。しかし、彼女はそれにはあえて触れませんでした。
 私も、彼女の制服を自分の汚いモノでけがさなかったことだけでもよかったと思っていました。もちろん、不良少女に対する恐怖もありました。しかし、気持ちのどこかで、彼女の神聖さに対する畏怖を抱いていたのも事実でした。
 恵美も、私のそういう気持ちを感じ取ったのだと思います。不様な射精を責め立てる仲間たちを抑えて、私をそのまま解放してくれたのです。

次頁→

TOP

動画 アダルト動画 ライブチャット